ガロア理論スケッチ

代数方程式と対称群

n次代数方程式の解法はn次対称群の構造と対応している。
この対応関係を使うと一般的な3次、4次方程式について解の公式が存在することや、
一般的な5次方程式について解の公式が存在しないことなどを簡潔に説明できる。

この説明において、正規部分群という概念が非常に重要に役割を果たす。
正規部分群と代数方程式の解法の必然的な関係を理解するには、3次、4次方程式の解法と、3次、4次対称群の構造をよく分析するのが手っ取り早い。

本記事は、3次方程式の解法と3次対称群の構造の関係を考察し、正規部分群と代数方程式の解法の必然的な関係についてまとめる。

対称群とその正規部分群

群の定義

乗算は数に対して定義されたものであったが、それを一般化し、色々な集合の上に定義して生まれた概念が群である。
ある集合Gとその要素間の演算*が以下の3つの条件を満たすとき、(G, *)は群であると定義される。

  1. 結合則 : 任意のx,y,z∈Gについて、(x * y) * z = x * (y * z)が成り立つ。
  2. 単位元の存在 : 任意のa∈Gについてあるe∈Gが存在し、(x * e) = (e * x) = aが成り立つ。
    eは単位元と呼ばれる。
  3. 逆元の存在 : 任意のx∈Gについてあるr∈Gが存在し、(x * r) = (r * x) = eが成り立つ。
    rは逆元と呼ばれ、x^-1と表記される。

例えば、有理数全体の集合をQ、有理数上の乗算を*としたとき、(Q, *)は群である。
整数全体の集合をZとしたとき、(Z, *)は逆元の存在の条件を満たさないので群ではない。

対称群

n個の要素からなる順列の集合を考える。
例えば、3個の要素からなる順列は{1 2 3}、{2 1 3}、{1 3 2}、{3 1 2}、{2 3 1}、{3 1 2}の6通りある。
この集合の上で、1引数目の順列を2引数目の順列で並べ直す演算*を定義すると群となる。
このように並び替え操作について作られる群は対称群と呼ばれている。

{1 2 3} * {3 1 2} = {3 1 2}
{2 1 3} * {3 1 2} = {3 2 1}

ところで、群上の2項演算*は可換とは限らない。例えば、

{2 1 3} * {3 1 2} = {3 2 1}
{3 1 2} * {2 1 3} = {1 3 2}
となる。

一般的に、n個の要素からなる集合の並び替えについての対称群はn次対称群と呼ばれており、その要素の個数はn!である。
n次対称群はS_nと表記される。群に含まれる要素の個数は位数と呼ばれる。
S_nの位数がn!であることを、order(S_n)=n!のように表記する。

群の構造

群に含まれている群、部分群を通して群は観察される。
例えば({2 1 3}, {1 2 3})や({3 1 2}, {2 3 1}, {1 2 3})はS_3の部分群である。
また、この2つの部分群のように、ある1つの要素から生成される部分群は巡回部分群と呼ばれている。

正規部分群

代数方程式の解法について考察する際に、もっとも重要な役割を果たすのは正規部分群と呼ばれる部分群の概念である。
群Gの部分群Hについて、「任意のg∈GについてgH = Hgが成り立つ」とき、HはGの正規部分群であると定義される。
gHとは、Hの要素それぞれに左からgを掛けた結果の集合である。
その逆に、Hgとは、Hの要素それぞれに右からgを掛けた結果の集合である。
また、G * HとはGのそれぞれの要素にHのそれぞれの要素を右から掛けた結果を集めた集合とする。

ある群が正規部分群であるということは、その群による左剰余類の集合と右剰余類の集合が一致することと言い換えることができる。
群Gの部分群HのGに対する左剰余類の集合とは以下の条件を満たすL_1、L_2、...、L_mのことを指す。

L_1 * H = L_1
L_2 * H = L_2
...
L_m * H = L_m                             - (A)

m = order(G) / order(H)
order(L_i) = order(H)     (1 ≦ i ≦ m)
群Gの部分群HのGに対する右剰余類の集合とは以下の条件を満たすR_1、R_2、...、R_mのことを指す。
H * R_1 = R_1
H * R_2 = R_2
...
H * R_m = R_m                             - (B)

m = order(G) / order(H)
order(R_i) = order(H)     (1 ≦ i ≦ m)

具体例として、({1 2 3}, {2 3 1}, {3 1 2})についてその剰余類を求めると以下のようになる。
以下、A_3 = ({1 2 3}, {2 3 1}, {3 1 2})とおく。
A_3については左剰余類と右剰余類の集合が一致しており、正規部分群であることがわかる。

({1 2 3}, {2 3 1}, {3 1 2}) * A_3 = ({1 2 3}, {2 3 1}, {3 1 2}) = L_1
({2 1 3}, {1 3 2}, {3 2 1}) * A_3 = ({2 1 3}, {1 3 2}, {3 2 1}) = L_2

A_3 * ({1 2 3}, {2 3 1}, {3 1 2}) = ({1 2 3}, {2 3 1}, {3 1 2}) = R_1 = L_1
A_3 * ({2 1 3}, {1 3 2}, {3 2 1}) = ({2 1 3}, {1 3 2}, {3 2 1}) = R_2 = L_2

次に、正規部分群でない部分群の例として、({1 2 3}, {2 1 3})についてその剰余類を求めると以下のようになる。
以下、P_3 = ({1 2 3}, {2 1 3})とおく。
P_3については左剰余類と右剰余類の集合にずれが生じる。

({1 2 3}, {2 1 3}) * P_3 = ({1 2 3}, {2 1 3}) = L_1
({2 3 1}, {3 2 1}) * P_3 = ({2 3 1}, {3 2 1}) = L_2
({3 1 2}, {1 3 2}) * P_3 = ({3 1 2}, {1 3 2}) = L_3

P_3 * ({1 2 3}, {2 1 3}) = ({1 2 3}, {2 1 3}) = R_1 = L_1
P_3 * ({2 3 1}, {1 3 2}) = ({2 3 1}, {1 3 2}) = R_2 ≠ L_2
P_3 * ({3 1 2}, {3 2 1}) = ({3 1 2}, {3 2 1}) = R_3 ≠ L_3

連正規列

H_(k+1)がH_kの正規部分群であり、剰余群H_k/H_(k+1)が位数が素数の巡回群であるような部分群の列

G = H_0 ≧ H_1 ≧ ... ≧ H_k = {e}
連正規列と呼ぶ。
n次代数方程式に代数的な解法があるということは、n次対称群について連正規列があることと言い換えることができる。

連正規列を持つ群は可解群と呼ばれる。
S_3、S_4は可解群であるがS_5は可解群でないことが知られている。

3次方程式の解法とその補助方程式

3次方程式の解法を紹介する。
簡単のため以下の形に変形された3次方程式の解法を紹介する。

x^3 + p x + q = 0     - (1)
この方程式の解をそれぞれr_1、r_2、r_3とおく。
そして以下のようにs_1、s_2、s_3を定める。
この式はラグランジュの分解式と呼ばれている。
s_1 = r_1 + w r_2 + w^2 r_3
s_2 = r_1 + w^2 r_2 + w r_3     - (2)
s_3 = r_1 + r_2 + r_3
解と係数の関係より s_3 = 0であるので、s_1とs_2を求めれば、r_1、r_2、r_3の値を求めることができる。

ここで

s_1 = perm({1 2 3}, s_1)
s_1 = perm({2 3 1}, s_1)            - (3-1)
s_1 = perm({3 1 2}, s_1)

s_2 =  w^2 * perm({2 1 3}, s_1)
s_2 = perm({1 3 2}, s_1)            - (3-2)
s_2 = w * perm({3 2 1}, s_1)
という関係に着目する。
perm(x, y)はyに現れるrの添字をxにより置換するという意味の関数とする。
そうすると以下の関係がs_1^3、s_2^3について成り立つことを確認できる。
perm({1 2 3}, s_1^3) = s_1^3
perm({2 3 1}, s_1^3) = s_1^3     - (4-1)
perm({3 1 2}, s_1^3) = s_1^3

perm({2 1 3}, s_1^3) = s_2^3
perm({1 3 2}, s_1^3) = s_2^3     - (4-2)
perm({3 2 1}, s_1^3) = s_2^3
s_1^3とs_2^3を入れ替えた以下の関係も成り立つ。
perm({1 2 3}, s_2^3) = s_2^3
perm({2 3 1}, s_2^3) = s_2^3     - (4-3)
perm({3 1 2}, s_2^3) = s_2^3

perm({2 1 3}, s_2^3) = s_1^3
perm({1 3 2}, s_2^3) = s_1^3     - (4-4)
perm({3 2 1}, s_2^3) = s_1^3

上記の関係より、

s_1^3 + s_2^3
s_1^3 * s_2^3
の2式について、どのような置換によっても不変であることが(4-1)(4-2)により確認できる。
それゆえ、これらの値はp、qを用いて表すことができる。
実際に計算してみると、以下のようになる。
(X - s_1^3)(X - s_2^3) = 0
 <=>
X^2 + 27 q X - 27 p^3 = 0     - (5)
この2次方程式を解くことにより、s_1、s_2の値を求められる。
その結果により、r_1、r_2、r_3の値も求められる。
(5)のような式は補助方程式と呼ばれている。

補助方程式と正規部分群

最後に上記の3次方程式の解法のどこに3次対称群が連正規列を持つことに対応しているのかを解説する。

その箇所とは、(4-1)(4-2)(4-3)(4-4)である。
(4-1)(4-2)(4-3)(4-4)について、s_1^3、s_2^3をX_1、X_2に、perm(x,y)をx*yにそれぞれ置き換えると以下のようになる。
以下の式が成り立つようなX_1、X_2が存在するということは、{1 2 3}、{2 3 1}、{3 1 2}からなる群が正規部分群であることに対応している。
実際、X_1に{1 2 3}、{2 3 1}、{3 1 2}からなる集合を、X_2に{2 1 3}、{1 3 2}、{3 2 1}からなる集合を代入すると、以下の式が成り立つ。

{1 2 3} * X_1 = X_1
{2 3 1} * X_1 = X_1     - (5-1)
{3 1 2} * X_1 = X_1

{2 1 3} * X_1 = X_2
{1 3 2} * X_1 = X_2     - (5-2)
{3 2 1} * X_1 = X_2

{1 2 3} * X_2 = X_2
{2 3 1} * X_2 = X_2     - (5-3)
{3 1 2} * X_2 = X_2

{2 1 3} * X_2 = X_1
{1 3 2} * X_2 = X_1     - (5-4)
{3 2 1} * X_2 = X_1

さらに、(5-1)(5-2)(5-3)(5-4)はそれぞれ以下のように書き換えることができる。

X_1 * X_1 = X_1     - (6-1)
X_2 * X_1 = X_2     - (6-2)
X_1 * X_2 = X_2     - (6-3)
X_2 * X_2 = X_1     - (6-4)
(6-1)(6-2)(6-3)はX_1が正規部分群であるということと同値である。

また(2)をみると確認できるように、s_1とs_2との関係は{1 3 2}、{1 2 3}からなる部分群と対応している。
これは、正規部分群による剰余群は、位数が素数の可換群であることに対応している。


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